前回行った推計計算によって、斐伊川水系の治水工事の経済効果として公表されている2兆658億円について、そのインチキの度合を推計したところ実に64倍もの水増しをしていたことが判明したわけです。その結果、経済効果(総便益B-3)の推定値である322億円をもとに算定されたB/Cの値が0.05となった事実は極めて重いものがあります。まだ工事が始まっていない大橋川改修工事だけでなく、事業のかなりの部分が終り、ほどなく完了する見込のダムと放水路事業を含めた全体の治水事業の継続に赤信号が付くことになるからです。
しかも、この64倍の水増しについても相当以上に少なめに推計したものです。たとえば、1,500億円とした被害見込額を961億円(“
粉飾された2兆円-11”で示したものです)とし、水災保険の基礎料率を1%ではなく、0.5%(これが建物・屋外設備・装置の最大料率です)としたらどうでしょうか。
被害軽減額(B-1)が961億円ですので、年便益(B-2)は、
となり、総便益(B-3)は、「
DCFの計算式」(※年間総収入4.8億円、投資収益率4%、投資期間50年で計算)により、
と推計されるのです。B/Cの値で言えば、B=103億円、C=6,047億円ですから、
となり、国交省が公表している3.42の実に200分の1になってしまいます。これはとりもなおさず、2兆658億円という数字がフーセンのように200倍にも水増しされていることを意味しています。
このように、2兆円という、にわかには信じられない数字が一人歩きするに至った原因は何でしょうか。私は3つの原因があると考えています。
一つは、計算そのものの間違いです。斐伊川水系の治水事業だけでなく、全国的にもトンデモない数字が踊っているところから、単なる計算違いとか、うっかりミスではなく、治水事業を強引に推し進めようとしてなされた確信犯的な計算違いではないかと思われます。私の手許に計算明細がありませんので、具体的な指摘はできませんが、被害想定額の過大見積りに加えて“洪水の生起確率”(『マニュアル』、P.60)の計算にゴマカシがあるのではないでしょうか。国交省の役人達は、地域住民が何か文句をつけてきても、テキトウにゴマかして煙に巻いてしまえばいいとタカをくくっているのでしょうか。傲岸不遜(ごうがんふそん。自分を偉い人間だと見て、めったに人に頭を下げない様子、-新明解国語辞典)を絵に画いたようですね。しかし、いくらゴマかそうとしても、計算根拠となった全てのデータが公開された段階で一つずつ吟味していけば簡単に分かることです。
二つは、国交省の役人の資質に問題があり、公共事業を好き勝手に牛耳ってきた驕りです。これは前者の意図的なゴマかしと密接に関連するもので、いわば、”逆立ちした公僕意識”とでも言えるものです。自らもキャリア官僚として財務省に勤めていた高橋洋一氏は、現在の役人とそのシステムについて次のように喝破(かっぱ。何が真実であるか鋭く指摘すること、-新明解国語辞典)しています。
“現在の財務省を始めとする霞が関に働く人々は、個人としての能力は高いかもしれないが、組織としては、まさに幼稚な集団である。
いうまでもなく、官僚は公僕であり、与えられた最大のミッションは国民のために働くことだ。にもかかわらず、彼らの頭のなかには省利・省益しかないのではないかと思われることがある。
…
官僚たちは、霞が関で生きるためだけに組織の意向に従い、いってみれば思考停止状態をずっと続けるわけで、仮に大学生の頃は優秀であったとしても、その後は一歩たりとも成長せず、逆に劣化しながら年月を重ねることになる。“(『さらば財務省』講談社、P.2~P.3)
公僕でありながら国民のことをそっちのけにして、省利・省益に明け暮れている役人達の実態を明解な言葉で語り尽した高橋洋一氏の明晰な頭脳と何ものにも怯(ひる)むことのない勇気に、心からなる敬意を表したいと思います。
三つは、チェック・システムの事実上の欠如です。確かに建前としては、“学識経験者等の第三者から構成される委員会”(事業評価監視委員会)を設置して、意見を聴き、その意見を最大限尊重するようになってはいます。(「
国土交通省所管公共事業の再評価実施要領」)。
しかし、すでに述べましたように
“中国地方整備局事業評価監視委員会”は、肝心のB/C分析については一言もコメントを発することなく追認するだけに終っているのです。
メンバーは委員長を含めて10人、全て国交省が選んだ“学識経験者”です。他のほとんどの審議会と同じように、役人達の行っていることをひたすら唯々諾々(いいだくだく)として追認するために存在している“隠れみの”、あるいはカムフラージュと評しても過言ではありません。
以上の3つの原因、つまり、
- 意図的と思われる計算違い、
- 省利・省益に走る役人達の劣化した資質と驕り、
- チェック・システムの事実上の欠如
によって、一寸踏みとどまって常識に照らして考えてみれば、間違いであることが容易に分かることが白昼堂々とまかり通っているのです。
(この項つづく)
―― ―― ―― ―― ――
ここで一句。
“特定の 人が道路で 食っている” -明石、竹風。
(毎日新聞、平成20年4月30日号より)
(このごろ道路(ドーロ)で喚(わめ)く者、役人、政治屋、たかりの業者。)
<今の松江> (平成20年6月11日撮影)
東本町1丁目の堀川
|
東本町2丁目の堀川
|

|

|
東本町2丁目の堀川
|
東本町2丁目の堀川
|

|

|